「おにぎりは安くすれば売れる」に潜む価格設定の落とし穴

「まずは価格を下げて勝負しよう!」おにぎり屋開業当初、多くの方が一度は考える戦略かもしれません。でもそれ、本当に正解でしょうか?

小さなおにぎり屋にとって、価格設定は単なる「売れそうな値段」をつける作業ではありません。利益、継続性、自分の時間や生活・・・これらすべてが“価格”という数字に左右されるからです。

この記事では、おにぎり屋時代の僕自身の経験をふまえ、「安くすれば売れる」に潜む落とし穴について解説します。

絶対的な安さではなく「割安感」

確かに「安い」ことでお客さんは来るというのは一理あります。でも、それは裏を返せば「提供している商品の価値」ではなく「値段で選ばれている(ただ値段が安いというだけの価値)」可能性がということ。つまり、もっと安い店が出てきたら即座にそちらに流れる可能性があるということです。

しかも、一度設定した価格は簡単には上げられません。

「あれ?値上げしたの?」

「高くなったね」

そう言われることを恐れてしまうからです。

「安さ」を売りにするには、大量仕入れ・大量販売のスケール戦略が同時に必要になります。安い商品を販売して利益を取るためには、同時に安い仕入れが絶対条件となるからです。少人数・小設備・バイイングパワーのない個人のおにぎり屋にとって、これはかなり厳しい戦いを強いられるわけです。

小さなおにぎり屋は、「絶対的な値段の安さ」を武器とするのではなく「提供している価値の割に安い」という割安感戦略を取ることで、大きな企業の低価格戦略で集まる同じ価値観のお客さんを取り合いすることから避けられるわけです。

時間単価がいくらになるか?

では、次はおにぎり1個あたりの生産性について考えてみます。

たとえば、Aというおにぎり。このAというおにぎりを1個150円で売るとします。原価率を40%とした場合、原価は60円。1個あたり残る粗利は90円です。1日100個売ったとして粗利は9,000円。

一方で、Bというおにぎり。このBというおにぎりを1個300円で売るとします。原価率を50%とした場合、原価は150円。1個あたり残る粗利は150円です。1日65個売ったとして粗利は9,750円。

  • Aおにぎり:1個150円
    -原価率40%の場合、粗利額は90円
  • Bおにぎり:1個300円
    -原価率50%の場合、粗利額は150円

AおにぎりとBおにぎり、1個作るのに要する時間が同じなのであれば、さてどちらのおにぎりのほうが生産性が高いでしょうか?さらに言えば、Aおにぎりでは100個、Bおにぎりでは65個の販売数で粗利額は同等になる。さて、どちらが生産性が高いでしょう?人件費・家賃・光熱費など、この粗利から差し引いた最終的な残りが自分の取り分となります。どちらの方があなたにとって幸せでしょうか?

自分の時間単価がいくらになるか?」は小さなおにぎり屋にとって重要な指標の1つ、一度真剣に計算してみることをおすすめします。

「値段」ではなく「納得感」で買っている

同じ価格だとしても、「なぜその価格なのか」が伝われば意外と高く感じません。しかも、多少の価格差があったとしても、つまり多少値段が高かったとしても高い方を選ぶということは普通に起こり得ます。

  • 地元食材を使っている
    -お客さんの求めている食材判断基準に合致する
  • 注文後に握ってくれる
    -出来立てというだけで価値が付加される
  • 化学調味料を使っていない
    -無化調志向の人は一定数います。

こうした“物語”や“背景”がある価格設定には、納得感があります。逆に、何も伝えなければ?たしかに価格だけが判断基準になり、「このおにぎり高くない?」という印象を持たれてしまうのも仕方がありません。

ご自身が買い物をするときの経験を思い出してみてください。

消費カテゴリーごとに価値基準は異なると思いますが、決して価格の安さだけでは選んでいないはずです。

デザインが自分好みということだけで他より高いものを買ってみたり、店主ブログのファン(価値観を共有している)だからといって他より高いものを買ってみたり、有名店だからという理由だけで他の安いお店ではなく高いお店に行ってみたり。決して価格の安さだけが判断基準にはなっていないはずです。

逆に、同じような商品で、かつ何も背景が見えない商品だったとしたら、判断するのは自ずと価格だけ。自分の購買者側の経験に当てはめてみても、そのような経験があるはずです。

続けるための価格とは?

価格は「お客さんのため」に考えるものでもあり、同時に「自分が事業を続けていくため」にも必要ななものです。

  • 家賃を払えるか?
    -お店の家賃を賄うためにもこの価格が適切。
  • 生活費は確保できるか?
    最終的な自分の取り分(給与)を確保するために、この価格が適切。
  • スタッフを雇えるか?
    -スタッフを増員した分、追加でこのくらいの粗利を獲得する必要がある。だからこの価格が適切。
  • 設備投資を回収できるか?
    -投資回収をしていくためには、これだけの利益が必要。だからこの価格が適切。

などなど。これらすべてが、価格を設定するために必要な要素となるわけです。もちろん、お店の製造・販売のキャパシティも同時に考慮する必要がありますが。つまり、価格とはあなたの事業の生命線、おにぎり屋を続けていくための最重要課題といっても過言ではないのです。

まとめ|価格を裏付ける理由を持つ

「安くすれば売れる」は、たしかにひとつの戦略かもしれません。でも、それだけで続けられるほど商売は甘くありません。「売れる」と「お店が続けられる」はまったく別の次元の話だからです。

僕自身、安く売って続けられている小さなお店をまだ一度も見たことがありません。

安いまま売り続けて結局立ちいかなくなって倒産破産、また同じように安く売り続けて立ちいかなくなって倒産破産。こうやって破産倒産を繰り返しながら小さなお店は循環している。

その倒産破産の原因のひとつは、安く売り続けたことによる代償。適切な価格で販売出来なかったことによる代償。結局、国からの救済というカタチで税金が投入される。一体なんのため誰のためにお店を開業したのか分からなくなります。

価格設定とは、「誰に、どんな価値を、どんなスタイルで届けるのか」これらを言語化するためのものでもあるわけで。ただなんとなくで決めて上手くいくほど商売は簡単ではありません。

「値決めは経営(故:稲盛和夫氏)」という言葉にもある通り。「なんとなく〇〇円」で売るのではなく、「〇〇円で売る理由を持っている」状態を目指すことが求められるのです。