「余ったおにぎりをどのように活用するか?」おにぎり屋をやっていた当時はいつもそのことについて頭を悩ませていました。
産直市に卸してみたり、身内や友達におすそ分けしたりと。なんとか捨てずに済む方法を考えてはいましたが、それでもやはり廃棄してしまうことはありました。そんな折に思い立ったのが、余ったおにぎりを冷凍して取引先の人たちに販売するという方法だったのです。
売れ残りから生まれた小さな商い
おにぎり屋をはじめて1年ほどたった頃。ちょうどその日は、取引しているお米屋さんが週一でお米を届けてくれる日です。
いつものように夕方仕込みをしているときにお米屋さんがお米を届けに来てくれました。実は、いつもならこのとき毎回おにぎりを買って帰ってもらったり。売り切れの場合は、普段余ったおにぎりを冷凍したものを「おすそわけです!」持って帰ってもらうのですが、この日はその冷凍おにぎりもありませんでした。

僕「すんません、今日は冷凍おにぎりもないんすよ」
お米屋さん「いやー、あの冷凍おにぎり、実はものすごい重宝してるんです。お金払うんで来週予約しといてもいいですか?」
と、こんな感じで提案され。それまではお金をいただかず持って帰ってもらっていたものを次回の納品日に予約という形で20個ほど注文をいただくことになったのです。
お米屋さん「うちの奥さんが職場で小腹がすいたときに食べてるんですけど、すぐなくなるんですよ。」
主に奥さんがメインで食べてくれてたようで。「黒米の鮭おにぎり」を中心に定番人気の「焼きおにぎり」「チーズおかか」など、数種類のおにぎりを予約してくれました。その1週間後、約束通り冷凍おにぎりの取引が成立したのです。このとき初めて、売れ残ったおにぎりを冷凍したものがお金に換金され、『冷凍おにぎりを販売する』という小さな商いが生まれたのです。
といっても、いずれの冷凍おにぎりも売れ残ったのものを冷凍したものだったので、通常販売していたおにぎりの価格ではなく、すべて100円です。「いや、もっと支払いますよ。」と言ってくれたもの、こちらは原価分さえ賄えたら御の字だったため、冷凍おにぎり一個当たり100円で販売させてもらうことになったわけです。このとき、密かに頭の中で「冷凍おにぎりか・・・これはこれで商売になるんかな。」などと考えてはいましたが。お店で使用していた冷凍庫は4ドア冷凍冷蔵庫(冷凍庫はそのうち1ドア分のみ)なので、あまり多くを冷凍してはおけません。
おにぎりの具材として使用する鮭やその他の材料も冷凍で保存してあるため、冷凍おにぎりを保存しておけるのはせいぜい30個ほどが限界です。おまけに冷凍おにぎりを販売できたと言っても一個100円です。「さすがに通常のおにぎりと同価格では売れないだろう」といった、当時の僕の勝手な判断から。このとき検証することもせず、冷凍おにぎりを事業としてやってみようというところまでは至らなかったのです。
試作品を食べてもらって気づいたこと
それから4年半ほどの年月が経ち(おにぎり屋を廃業する半年ほど前ですね)、通常の店舗営業に疲れを感じ始めていたころ。冷凍おにぎりを事業としてやってみようという気持ちが少しづつ芽生えていました。
この頃になると、新米事業者ではなく少しは事業者としての自覚も生まれていたので、計画(考えること)の重要さは勿論のこと行動を起こす重要さも理解しています。そこで、まずは簡単な試作品を作って実際に誰かに食べてもらうことにしました。

お店に来店してくれていた常連さんに対して「こんなの作ってみたんですけど、よかったら食べてみてください」といった感じで。簡単にパッケージングした試作品を渡して後日来店されたときに感想を聞くという試みをしてみました。このときは皆口を揃えて「美味しい」と言ってくれていました。
まあ現にうちのおにぎり屋を気に入ってくれてるから頻繁に来店してくれてるわけで、当たり前と言えば当たり前なのですが。ただ、実際に「この冷凍おにぎりが欲しい(買いたい)」とまで言ってくれる方はその中にはいらっしゃいませんでした。
ここで僕が見落としていたのは、通常の惣菜としての「生(冷凍ではない)のおにぎり」を購入してくれる方と「冷凍おにぎり」を購入してくれる方は全然異なる人だったということです。それまでお店に来店してくれていた方は、基本的にはランチ用(一部手土産用)として「おにぎりと唐揚げ」「おにぎりと唐揚げのセット」を購入してくれていましたが。これが冷凍おにぎりになると、小腹がすいたときに電子レンジで簡単に調理できるという便利さがメイン価値になってくるので、対象となるお客さんの層は自ずと異なります。
試作品を食べてくれた方の反応を直に聞けたことで、その当たり前のことに気づくことが出来たのです。
余力が残っていなかった
ということで、普段お店に来店されている方ではない方、冷凍おにぎりに価値を感じてくれるであろう方へアプローチする簡単な手段として、当時運営していた自店のサイトで『冷凍おにぎり』について密かにアップしてみたところ。数日後に近所の方が来店してくれたのです。
「冷凍おにぎりありますか?」あまり見かけた方ではなかったので、「なんで冷凍おにぎりのことを知ったんですか?」と尋ねてみたところ。「なんとなくこのお店のことをネットで調べていたら冷凍おにぎりの記事が書かれてあったので」と答えてくれました。おにぎり屋開業当初に何度か来店されていた方だということも分かりました。
僕としては、まさかネットから反応はないだろうとあまり期待はしてなかったので少し驚きましたが、冷凍おにぎりの試作品を渡してまた後日感想をくれることを約束しました。
「ローカルのお店でもネットは十分に力を発揮するんだ」と感心したものの。実際このときはおにぎり屋としてかなり疲れを感じていたこともあり。「ようし巻き返しや!」そう意気込むほどの気力は当時の僕に残っていませんでした。
5年と半年。お店の数字を見てきて小規模経営に関する知識も一通りついてきたこともあり。余力もない状態でこれ以上変に動き回るのはやめようという気持ちから、この『冷凍おにぎり事業』は日の目を見ず、世に出るところまで至らなかったのです。
もし、このとき冷凍おにぎりを事業として挑戦していたとしたら。後にそんなことも想像してみたりもしましたが、いくら「たられば」の話をしても後の祭りです。そんなこともあったなー。と、今では良い思い出として頭の片隅にしまっています。
